昨年末から今年にかけて「ダイハツ不正問題」に関連したニュースをあちこちで見かけます。
元ディーラーの整備士として働いていた身としては(クルマの開発といった分野でも同じような事が起こっていたんだな)と妙に納得してしまいました。
自動車メーカーといった分野までプレッシャーが及んでいたという事実。
これらの問題について、自分の過去の体験談も交えて考察します。
尚、私自身の独断と偏見も多少含まれている点もあることをご了承下さい。
ダイハツ不正問題とは?
ダイハツ工業の認証申請の不正行為が発覚したきっかけは内部通報によるものです。
2023年4月上旬に内部からの通報があり、それが不正行為の発覚のきっかけになります。
その後、国土交通省の立ち入り検査を受けて不正行為が明らかになりましたが、不正行為の全容が明らかになったのは国土交通省の立ち入り検査を受けた後。
この結果、ダイハツ工業は全車種の出荷を一時停止。また国土交通省からは「是正命令」を受け、必要な対応を進めるよう指導を受けました。
ダイハツ工業は、品質不正に手を染めた真因は「技術力不足」にあるとされ、それを許したのは管理職の機能不全およびリスクに対する経営陣の機能不全だとされています。
そして、少なくとも34年間不正を継続し、隠蔽し続けても問題にならなかったという現実が、同社の不正行為を正当化したとされています。
この不正発覚を受け「非常に悪質である」として、国土交通省は同社に対して組織体制の抜本的な刷新を求める「是正命令」を出しました。
具体的にはどのような不正があったのか
具体的には、エアバッグの作動試験において、本来は衝突時の衝撃をセンサーで検知し自動で作動させる必要があるエアバッグを、タイマーで作動するように設定して試験を行っていたという報告があります。
またヘッドレストの衝撃試験では、助手席の結果を運転席の試験結果とするウソの記載や、試験中のタイヤの空気圧についてウソの記載をするなどといった不正もあったと報じられています。
調査の結果、25の試験項目において174個の不正行為が判明しました。
不正行為が確認された車種は、すでに生産を終了したものも含め64車種・3エンジン(生産・開発中および生産終了車種の合計)となっています。
この中にはダイハツブランドの車種に加え、トヨタ自動車、マツダ、SUBARUへOEM供給をしている車種も含まれています。
その他国土交通省の発表を要約
– 国土交通省は、令和5年12月21日から令和6年1月9日まで、ダイハツに対する立入検査を実施した。
– 立入検査の結果、ダイハツから報告があった142件の不正行為の事実を認定するとともに、新たに14件の不正行為(試験車両に不適切な加工を行う不正行為(9件)、規定と異なる試験装置を使用する不正行為(5件))を確認した。
– 特に悪質な不正行為が行われたと認められる3車種(ダイハツ・グランマックス、トヨタ・タウンエース、マツダ・ボンゴ)について、型式指定を取消すこととし、関係法令の規定に基づく手続きを開始した。
– ダイハツに対し、二度とこうした不正行為を起こさない体制への抜本的な改革を促すべく、道路運送車両法の規定に基づき、自動車の型式指定申請に係る違反の是正命令を発出した。
– 基準不適合の可能性があると報告された2車種(ダイハツ・キャスト、トヨタ・ピクシスジョイ)について、リコールが必要な場合は速やかに届出を行うよう指導した。ーーー
なぜこのような事態になったのか?
まず始めに、ここからの内容は決してダイハツだけを批判するものではない、ということを申し上げておきます。
もちろん私はダイハツの内部事情に関して詳しい事はわかりませんから「こうだったのではないか?」という独自の推測となります。
私は元ディーラーの整備士で長年働いていました。しかし仕事の内容は違っていても、置かれていた立場はまったく変わりません。
こういった自身の体験談も交えて「ダイハツ不正問題」を取り上げ、何が原因なのかを考察します。
あくまで一個人の意見ですので、これが正しいという訳ではない事をご理解下さい。
開発スピードに無理があった
この「ダイハツ不正問題」の根本を簡単に言ってしまえば、世界一の「トヨタ」の完全子会社となったことで、ダイハツには相当なプレッシャーがあったのでは?と言われています。
親会社からの依頼であれば、その要望に無理にでも応えようとするのはある意味当然です。
特に開発部門は他メーカーとの競争ですから、いかに他社よりも良い製品を出すかということに注視するわけです。
他社との開発競争に勝たねばならないし、決められた期間内までに生産の目処をつけなければならない。そのような状況で従業員や社員には相当なプレッシャーがあったと推察します。
しかし、最前線の現場を体験していない、もしくは実際の現場を知らない人間が上司や役員となることで、経営陣と現場の間で意見の乖離が起こります。
これは自動車メーカーであろうと自動車ディーラーで働く従業員であろうと、どんな職業であろうとなんら変わらないと思います。
あくまで推測ですが、役職や上層部などの重要なポストに就く人の大半は大学卒などの高学歴と思います。
一昔前のように、平社員から這い上がってきた「叩き上げ」で出世する人は現在では非常に少ないんじゃないでしょうか。
ただ上からの命令で部下や社員に指示を出しているだけで、直接その現場を経験している訳ではないということです。
経験していないから社員の大変さがわからないし、無理難題な指示を出して現場を混乱させる。
社員も上司の指示に無理だとは言えず、人員が少ないにもかかわらず個人のキャパを超えるような仕事量を抱えることになります。
しかし無理をして重圧に耐えながら業務をこなすにも限界があります。
やむを得ず、期限に間に合わせるために時間がかかる作業を省いたり、必要な検査を端折ることになります。
そのことが積み重なって、今回の不正に繋がったのではないかと思われます。
記者会見では技術力の無さという発言をしています。人員が不足している可能性もありますが、それよりも一人当たりにかかる負担が大きいということです。
それぞれの部署で違いはあるでしょうが、人手不足の部署はそれなりの理由があるとしか思えません。
言い方は悪いですが、社員を散々こき使い、社員のためではなく自分の保身のために業務を押し付けているとしか考えられません。
社員一人一人の負担が大きいのに、意味不明な根性論を説いても何の解決にもなりません。
昔の「成功体験」は現代には当てはまらない
現在のクルマは衝突安全を考慮したボディ、誤発進抑制装置、車線逸脱防止など、ドライバーを補助する機構が組み込まれていますから、一台当たりのコストは昔とは大きく違います。
複雑な装置が搭載されていますから、それだけでも余計に開発に時間がかかるのは当然です。
業務の遅れをサービス残業や休日出勤、あるいは自宅に持ち帰って対処することになります。期限内に納めるために仕事をこなすしかありません。
便宜上、口では残業はするなとか言いますが、結局は間に合わない事をわかっていて間接的に残業をさせるように仕向けているような感じがあります。
経営陣や役職の方達はこの実態を理解していながら黙認しているということになります。
こういった上に逆らえないような体制は今に始まったことではなく、昔から存在していたということです。とにかく社員にプレッシャーをかければなんとかなると思い込んでいるようです。
だいたい今の時代にそぐわない根性論や精神論を説くなど時代遅れであり、昔の考えでは今の社員は納得しません。
昭和のような価値観は現在ではまったく通用しないことを認識していないんです。
このように、社員を過度に疲弊させて若い力を無駄に浪費し、追い詰められた結果が不正行為となって明るみになったとしか思えません。
人材不足の原因
以前から「人材不足」と言われています。
これは日本の企業が今まで社員や従業員をぞんざいに扱ってきた「ツケ」が回ってきたということです。
本来なら会社には世代ごとにバランスよく人員が確保されているはずですが、今では会社の中核が存在しないため、若い新人と年の離れたおじさんという図式になってしまいました。
特に「職業氷河期」と呼ばれる世代を企業は採用しなかった。そのため今の企業側には中間に位置する世代がいない状態です。
あの当時「おまえの代わりならいくらでもいる」と言っていた会社の皆さんはどう思っているんでしょうか? 今、特大のブーメランとなって帰ってきてます。
それに、本当に優秀な人は勤めていくうちに会社の実態を知ってサッサと辞めていきます。見切るのが速いんです。
入社しても一人当たりの仕事量が多く負担が大きいことに変わりはなく、中間層がいないので技術が継承されず、若い人が激務に晒されます。
その結果、退職者が多くなり人手不足。おまけに収入は少なく今後も年収が上がる見込み無し。
だいたい収入が少ない上に労働環境が悪い会社に勤める人なんていません。
「○○世代は・・・」などと発言する人達がいますが、そもそも今の企業が古い考え方を改めることが重要です。
人が足りないとか、すぐに辞めていく原因は「人」ではなく、企業側にも問題があるということを認識する必要があります。
まとめ
ダイハツの不正問題は、ただ単に自動車メーカーが起こした問題というだけではなく、日本の社会全体の問題です。
今回はたまたまダイハツ不正問題ということで表面化しただけで、未だに過去の悪しき慣習がまだ残っている会社が多いと言うことです。
このようなブラック体質の企業はまだまだ多く存在しているにもかかわらず、表面化することはあまりありません。このような問題をマスコミがあえて取り上げないよう忖度しているのでは・・・と勘ぐってしまいます。
ですが現在ではネットが発達していますから、口コミなどで会社の本質が見えてしまっています。
企業は「社員を育てる」ということをしなくなり、「社員を使い捨てる」ようなことをしています。
現代の便利さというのは、企業の努力ではなく、その下で働く社員や従業員の苛酷な労働環境の上で成り立っています。
企業は様々なアイデアを打ち出して利益を追求して実績を上げていますが、実際にその裏側で犠牲になるのは下で働く労働者です。
ある有名人(ヒ○ユキさん)が言ってました。
「日本は人材不足と言われているが、実際には人材不足ではなく、安く使える人材が不足しているだけ」という発言がありました。
これは乱暴な言い方をすれば「安く使える奴隷が不足している」という事と同義です。働く側としてはこれほど理不尽なことはありません。
まさに現在の日本を表している発言だなと感じました。
国が明確な施策を打ち出し、すぐにでも労働環境の抜本的な改革をしなければ、日本社会全体に歪みが生じることになります。(もう既に歪んでますが)
働く人のための改革が行われないと、それこそ今回のダイハツのようなケースが多くなる可能性があります。このままでは全ての職業が破綻します。
それと同時に、日本国民全体にそれぞれの労働環境がどうなっているのか理解してもらうことが必要になってきます。
国民全体が労働者のための改革を強く訴えることで、この悪い状況を変えることができるかもしれません。
生活面が多少不便になるかもしれませんが、労働環境を改善しなければ最終的にしわ寄せがくるのは国民です。
すべての働く人にとって良い社会になることを願っています。